ネット友達のお兄さんのおかげで、いじめに負けなかった中学生のお話。

みーちゃん

はじめまして。
二十代既婚女性のみーちゃんと申します。
今から十五年ほど前の中学生だった頃に流行っていた、個人で作成できるホームページの管理人さんとの思い出です。
私に初めてできたネット友達で、お兄ちゃんになってくれた管理人さんに救われたお話。
いつまでもなくならないいじめに悩んでいる人の心の拠り所の一つになるといいなと思います。

ババを引いてしまった中学2年生の夏

ころころと変わるいじめのターゲットがついに私にやってきました。
最初は首謀者と取り巻きによる悪口から始まり、部活内のメンバーに広がっていくと、つい先日までターゲットだった人は何事もなかったかのように、さも以前から仲間だったかのようにその輪に入っていきます。

ババ抜きの順番が回ってきてババを引いてしまったという、ただそれだけのことにように、いじめのターゲットが私の番になったのは、中学2年生の夏のことでした。

いじめのターゲットにする理由なんて大したことはないのです。
先輩に可愛がられているから、一人だけレギュラーに選ばれたから、太っているから、なんかムカつくから。
理由はわかりませんが、突然部活内での無視が始まりました。

思いがけない逃げ道の登場

私は二人姉妹の長女であり、親戚を含めても同年代の中では一番年上だったため、常にみんなにとってお姉ちゃんでした。
そのためかどうしても我慢をしてしまう所があり、いじめについても部活を休むという選択肢を選べずにいた所、突如熱中症になり、思いがけず部活を休むことになりました。

熱中症といえどもそこまで重症ではなかったため、当時は暇つぶしにインターネットサーフィンをして過ごす日々。
そんな中、当時私が好きだったバンドのとある個人ファンサイトに出会います。

管理人はりょうすけさん。
バイクが好きな12歳年上の男性がMobile spaceで無料作成した個人サイト。

誰でも携帯で作成できる、ありふれた個人サイトの中で唯一私が書き込みをしたただ一つの理由は「お悩み相談BBS」の文字に吸い寄せられたからです。
「お悩み相談BBS」は一つスレッドを立てるとパスワードを設定でき、自分と管理人のみが閲覧できるようになっていました。

長女の私にできたネット友達のお兄さん

誰にも言えなかったいじめの悩み。
ネット上の知らない人だからこそ、好き勝手に自分の気持ちを吐き出してもいいのではないかと思ったその瞬間、今まで溜め込んでいたものが溢れんばかりにパソコンのキーボードを叩いていました。

悔しい、わからない、どうして、逃げたい、嫌い、死にたいといったマイナスな言葉を羅列しただけの書き込みに返事なんて来るのでしょうか。
そんなことはどうでもよく、自分が言葉にできなかったことを言葉にし、排出しただけでも満足でした。

しかし、翌日なんとなく覗くと「NEW!」の文字と1増えている書き込み数。

りょうすけさんからのお返事です。
逃げてもいいこと、逃げる場所はここにあること、自分にはなんでも言っていいこと、今のいじめが一生続くことはないこと。
そしてお姉ちゃんとして我慢してきた分はここに吐き出してくれたら、自分がいつでもお兄ちゃんになって支えるということ。

誰にも言えず、一人で悩んでいた私の中に、光が差した瞬間でした。

いじめの終わりとお兄さんとのお別れ

ころころとターゲットが変わるいじめなんて長く続くわけもなく、夏休みが終わる頃には私へのいじめもなくなりました。

「今日部活に行ったら、今まで話してくれなかった子たちが話してくれるようになりました!
一人でいることもなくなり、学校が始まっても大丈夫そうです。」

「それはよかったなぁ。
みーちゃんが頑張ったからやなぁ。

でも、今度また誰かがいじめられているときは、みーちゃんが助けてあげてな。
みーちゃんはいじめを受けた苦しさとか知ってるからこそ、その子のこともわかって、助けてあげられるから。

「今のところは誰かいじめられている様子はないけど、もしそうなったら私も味方になってあげられるようになりたいな。
お兄さん、ありがとうございました。」

夏休みの終わり、いじめの終わりと共に、りょうすけさんとの掲示板のやり取りも終わりを迎えました。
学校が始まり、日常に戻った私は自然とりょうすけさんのサイトのことは忘れてしまいます。

夏休みが数ヶ月経ったある日、ふとりょうすけさんのサイトが気になった私は再びパソコンを開きました。
久しぶりに開いた見慣れた画面の中には、今まで無かったはずの文字の数々。

「管理人・りょうすけがバイク事故のため急逝致しました。」

一瞬にして体温が奪われる感覚。
強く、速く感じる鼓動。
血の気が引くとはこのことでしょうか。

顔も声も知らない、会ったこともない、もしかしたらりょうすけさんなんて人は最初から存在しなかったかもしれないようなインターネットの世界の中だけの、ネット友達のお兄さん。
しかし今あるのは、その人がこの世から完全にいなくなってしまったという事実だけ。

それすらも事実かわからないけれども、確かに私はりょうすけさんと会話をしたのです。
私とりょうすけさんの間に時間は流れていた、そして私はりょうすけさんに救われた。
それは事実であることに変わりありません。

現在、私はもう当時のりょうすけさんよりも年上になってしまいました。
今では私の方がお姉さんです。
たった数ヶ月の、インターネットの中にだけいた私のお兄さんは、今でも私のことを支えてくれています。