ネット恋愛で傷ついていたアラサーを救ってくれたネット友達の話。

ユリ

こんにちは、元・ネトゲ廃人のユリです。
気付けばもう30代半ば。
最近思い出すのは、29歳、最後の20代の時に経験したネット恋愛。
ネット恋愛から始まった恋はリアルの恋へと発展し、そして…。
よかったら、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

初めてのネトゲ恋愛

当時、私は人生初のネトゲにハマっていた。
仕事以外の時間はずっとスマホを握り、トイレへ行くにもお風呂へ行くにもスマホを操作しながらだった。
いわゆるネトゲ廃人である。

その異常な執着のおかげで、私のレベルはゲーム内において上位に食い込んでいた。
そんな中、同じギルド内で私と同程度の強さを誇るギルドマスター・洸とは、特に親しくしていた。
洸は質実剛健という言葉が似合う男性で、異性よりも同性に好かれるタイプの人だ。

個別チャットで戦略を練る事も多く、徐々にプライベートの話をする仲になっていった。
毎日親密なやり取りをしていると、段々と相手のリアルが気になってくる。

それは洸も同じだったようで、
「いちいち文字打つの大変だから、電話にしない?」
と言われ、私は躊躇なく賛同した。

初めて聴く洸の声は、今まで聴いたどの声よりも好みだった。
低いハスキーボイスで、耳の奥から脳の中心までゾクゾクする。

素晴らしい。
パーフェクト。
理想の声。

声フェチを自負する私は、もうその電話だけで恋に落ちていた。
恐ろしくチョロい。
今にして思うと、ゾッとするくらいチョロい。

洸に恋した私は、更にネトゲにのめり込んでいく。
洸のギルドを盛り上げるため、積極的にギルドメンバーとも仲良くした。
メンバーが楽しそうにしていると、マスターの洸も嬉しそうだったから。

ギルドメンバーは個性的な人が揃っていて、特に直くんと麗ちゃんは群を抜いていた。
直くんは洸を兄のように慕い、誰にでもフレンドリーな、みんなの弟的存在。
実年齢も20代前半の若手で、みんなに可愛がられていた。

しかし可愛らしい言動の一方で、リアルは苦労人で人生経験豊富らしい。
たまに放つ鋭い言葉がミステリアスな青年である。

麗ちゃんはギルドのマドンナ的存在。
顔が見えないゲームなのに、言葉だけで「イイ女」と思わせる何かを持っていた。
実際、たまにオフ会に参加してはファンを増やしていたので、リアルも綺麗な人なのだろう。

私たちがやっていたゲームは数人で協力してボスを倒し、経験値を稼ぐ事もできる。

毎日22時頃になると
洸「これからユリとボス狩り行くけど、一緒に行く人ー!」
直くん「はーーーーーーい(^∇^)一番乗り♪」

麗ちゃん「アタシの回復魔法、役に立つかな?」
私「麗ちゃん助かるー!来て来て!」
というノリで、数人で集まって遊んでいた。

そしてゲームが落ち着いた頃、洸と電話をするのが日課だった。

その内容は非常に甘ったるく、二言目には「会いたいね」と言い合い…今にして思えば、この頃が一番平穏で幸せだったと思う。
気軽に会えない距離に住んでいて、そのおかげで、ネット恋愛で済んでいたのだから。

ネット恋愛からリアル恋愛へ

そんな毎日を送る内に、気付けば12月。
もうすぐ年末である。
私たちはとうとう、年末の連休を利用して会う事になった。

その頃にはもうお互いの詳しいプロフィールや顔を知っていたので、会う事が怖くはなかった。
実際に会った彼は予想以上に素敵な人で、正直この時の記憶が曖昧だ。
挙動不審になっている私を揶揄いながらエスコートする彼は、二次元キャラもビックリなイケメン(※私基準)であった。

それから何度か会ってデートを重ねた。
遠距離なため頻繁に会えないが、毎日電話をして、会えば手を繋ぎ、別れ際にハグする仲になっていた。

毎日電話で甘い言葉を重ねていたせいか、ゲームにもそれは表れたらしい。
ある日、唐突に直くんが
「2人は付き合ってるの(//∇//)?」
とギルドチャットで発言した。

私は
「何を突然言ってるのかなー!?」
ととぼけ、彼は
「秘密だよ。」
という含みのある言い方で、直くんの好奇心を刺激したのだった。

それ以降、直くんは事あるごとに私たちを弄っていた。
そして何故か洸はそれに乗っかり、私を誉め殺しにして揶揄い、怒った私からの電話に謝りながらも更に揶揄うという高等テクニックを披露した。

そんな毎日の中で、珍しく直くんからの個別チャットが届いた。
『洸ちゃんは俺の恩人だから、洸ちゃんの相手がユリちゃんなら嬉しい。
ユリちゃんは俺と違って、腹黒いこと出来なそうだし。
単純なところが良いと思う。
応援してる。
あ、返信不要ですw』

ゲームでは一人称『僕』の可愛い話し方なのに…これは誰?
いつものノリと違っていて若干引いたものの、応援してくれて、素直に嬉しかった。

恋の終わり

ところで洸は東京に住んでいる。
そして東京はネトゲ人口が多い。
御多分に漏れず、我がギルドも半数が東京在住だった。

洸と親密になり半年、6月。
洸は忙しいのか、あまりゲームにも顔を出さず、電話の回数も減っていた。

私は洸と話せない寂しさを抱えながらも、変わらず夜はギルドチャットでみんなと話していた。
その中で、麗ちゃんが失恋したという話題になり、東京在住の行ける人だけで小さな飲み会を開く事になった。

私と直くんは東北勢なので不参加。
洸にも誘いの連絡が入れられた。

全てが終わった今だから分かるが、この飲み会がきっかけだったのだろう。
どちらから告白したのかは不明だ。

しかし花火大会が催される頃、付き合う事になったという結果だけ伝えられた。
私は捨てられたのだ。

ネット友達という存在

さすがに鈍い私でも、平気な顔をして洸と麗ちゃんと絡むのは辛かったので、ゲームを辞める事にした。
出来るだけ明るく、
「ちょっとリアルが忙し過ぎるので、すっぱり引退します!」
と宣言する。

洸から
「今までありがとう」
という言葉を貰った時は、さすがに泣いた。
いつも騒がしい直くんは無言だった。

それから数日後、直くんから
「元気?」
とLINEが届いた。

「そこそこ元気」
と返したら、
「バーカ!」
と唐突な罵倒。

なんなんだろう。

『なんで俺に相談しなかったの』
『俺が洸の味方だと思って言わなかったんだろうけど、俺は俺だし』

『俺は2人が仲良くしてるのが好きだったし』
『こんな辞め方したら、もう誰にも何も言えないじゃん。
負けんじゃねえよバカ

普段の可愛い直くんはどこに行ったのか。
なんだかオラオラ系になっていて引く。

引いたけれど、これがきっと本当の彼だし、優しさから来る発言だと理解している。
だから心から嬉しかった。
誰にも吐き出せず小さくなっていた自分に、手を差し伸ばしてくれて。

『今回だけ愚痴聴くから、電話出ろよ!』
と、彼はキレ気味で電話をかけてくれた。
私はその優しさが嬉しいのと、今まで溜め込んでいた悲しさとでグチャグチャになり、泣きながらどれだけ洸が好きだったかを語った。

泣きながら、
『ああ、本当はもう限界を超えていたんだな』
と気付けた。
このまま放っておいたら、この傷は膿んで一生残っていたかもしれない。

猫を被るのを止めた直くんは優しく慰めたりしなかった。
いつの間にか呼び捨てにされ、悩んでいたのが馬鹿らしくなるくらいバッサリと切り捨てる。

けれど、その方が心の整理ができた。
おかげで今は立ち直り、元気に暮らしている。

直くんと電話で話したのはこの一回きりだけど、たまに生存確認のLINEをする仲だ。
異性の、ネットでしか接点がない友人。

そこに友情なんてあるわけない、と思うかもしれない。
けれど、確かに彼の優しさで私は救われた。
顔も本名も知らない彼だけど、心から感謝している。

リアルの姿を知らないからこそ、本音で語り合える存在。
そういった存在に救われる人は、案外沢山いるのかもしれない。