人生を諦めようとした俺を救ってくれたネット友達の話をしたい。

シムラ

こんにちは。
シムラと言います。
もうすぐ三十路になります。笑
なのでもう10年位前の話になるんですけど、その当時追い詰められて人生を諦めそうになってた俺を助けてくれた女の子がいまして。
ネット友達だったんですが、その子の事をちょっと書いていきたいなと思います。
良かったら読んで行ってください!

浪人生だった俺を救ってくれたのがネットだった

当時の俺は大学受験に失敗して、浪人生として過ごしていました。
どうしても入りたい大学があって、第一志望の以外で妥協できなかった。
だから、毎日ひたすら勉強して、来年こそ受かるぞ!と思って過ごす日々。

でもやっぱり、周りの友達は大学生生活を謳歌してる。
すごく楽しそうで眩しく見える。

対して俺は、周回遅れでせっせと勉強をしている。
バイトもしていたけど、大学生のアルバイトの子達と一緒に働いてるとなんとも言えない気持ちになるんですよね。

大学生「シムラさんって大学生じゃないんですか?」
俺「そうなんすよー。実は。笑」

大学生「えー、それって浪人…って事?」
俺「まぁそうですね…」

こういう会話をした時に、相手の気まずそうな反応がめちゃくちゃ苦しかった。
マジで?みたいな顔をするけど、あからさまに気を使ってくれる感じ。
俺も俺で苦笑いしかできなくて、その度来年こそ第一志望受からないとって焦ってました。

あの時は、毎日焦りとか不安とかで、すごく苦しかった。
頑張るほど、泥沼にハマっていく感じ。

そんな頃、俺がかなり救われたのがネットでの繋がりでした。
一応名前は伏せますが、某SNS、みんながよく呟いてるアレです。笑

元々同級生とか、地元の友達とかと繋がってたアカウントがあったんですけど、そこで皆んなが「大学がどうこう」「単位がどうこう」って言ってるのを見るのが辛かった。
自分自身浪人生生活でかなり疲弊していたのもあって、違う世界の人と関わりたくなったんです。
とりあえず、趣味の話とかをするアカウントを新しく作って、そのアカウントの名前を「シムラ」にしました。

ネット友達との出会いは好きなバンドだった

「シムラ」のアカウントを作ってから、世界が広がったみたいですごく楽しかった。
学生の人もいれば、俺と同じく浪人生の人もいて、社会人の人もいるし、何をしてるのか分からない人なんかもいた。

今までのアカウントだと関わる事の無かった人達と、好きな漫画の話でや好きなバンドの話で繋がる。
来る日も来る日も勉強と焦りに追われていた俺にとって、救われたような気持ちにさせてくれる場所でした。

そんな中で、特に仲良くなったネット友達の女の子が居ます。
名前は便宜上「マリ」としておきます。(流石に本当のアカウント名は出せない。笑)
マリとは、好きなバンドの話で仲良くなりました。

俺『マリさんそのバンド好きなんですか?俺もめちゃくちゃ好きです!』
マリ『そうなんですか!!歌詞がすごく良いんですよねー。
もしかして、シムラさんの名前って…!?
俺『そうです、シムラさんが由来です。笑』

そんな些細なやり取りばかりだったけど、住んでる場所も顔も知らなくても、お互いにお互いを友達だと感じていました。
マリの事も沢山は知らなくて、俺よりもひとつ歳上の大学生で、妹がひとりいる事。

ロックが好きで、ギターを買って『沢山練習します!』って何回かアップしてたけど、たぶん挫折したんだと思う事。
そんな些細な事しか知りませんでした。

勉強の合間に、みんなの呟きを眺めて、メッセージのやり取りをしたり。
あのバンドの新曲がどうこうみたいな話をするのが、すごく楽しかった。

ある日俺がアップした1枚の画像に、マリが反応をくれた時がありました。
アップしたのは、合格祈願にと神社にお参りに行って、書いた絵馬を撮った写真でした。

『近所の神社でお参りしてきた!今年こそ頑張る!』
って感じの呟きだったんですけど、それに対してマリが
『頑張ってください!応援してます!!』
ってメッセージをくれたんです。

見ず知らずの誰かが、こうやって応援してくれた。
それだけで、めちゃくちゃ嬉しかった。

2度めの大学受験、その結果は……

結論から言うと、俺は2度めの大学受験も落ちた。

とにかくショックで、自分が惨めで仕方ありませんでした。
それまでの1年間、あれだけ頑張ったのに。

俺なんて、努力しても意味のない人間なんじゃないか?
ひたすら悲しくて、虚しくて、比喩でなくその後数日間寝込みました。

今年こそ、と意気込んでいた分ショックが大きかったんだと思います。
マリが『頑張ってください!』とメッセージを送ってくれたのに、それを無駄にしてしまった気になるのも辛かった。

同級生達は2年生になる。
俺は、まだスタートラインにすら立ててない。
そこに立てないまま、1年間も無駄にしたんだ。

しばらくはSNSにも触れずに、本当に虚無になったみたいに過ごしていました。
SNSをやったり、そこでネット友達なんかと遊んでるのが悪かったんじゃないか?
そんな時間を無駄にせず、もっと勉強すべきだったんじゃないか?

ひたすら悔やんで悩んで、もう自殺するしかないと思いました。

人生を諦めようとした俺を、救ってくれたのは

俺はその日の晩に、電車の踏み切りへと向かいました。
今思えばなんて突拍子も無い、と思いますが、当時はこんな人生に、もう先は無いんだ…そう思っていました。

遺書は部屋に書き置いてきて、財布すら持たずに、手には携帯だけ。
さぁ飛び込もう、と思った時、SNSで繋がってくれた人たちを思い出しました。
なんだかもうずいぶん懐かしい気がして、久しぶりにページを開くと懐かしい人たちが色んなことを呟いていました。

俺は最後のお別れのつもりで踏切の写真に
『さようなら。今までありがとう』
とだけ添えてアップしました。

送信ボタンを押すと、いよいよ後戻りができない気がして、途端に足が震えます。
何度も決意しては、何度も電車を見送る。
俺は、死ぬ事すらできないんだ……

そう絶望的な気持ちになった時でした。
「シムラくん!!」

女の子の声でした。
「シムラくんだよね?待って!!」

線路の向こう側に、自転車に乗った女の子が居ます。
その子は俺に向かって、たしかに「シムラくん」と読んだんです。
シムラは、好きなバンドマンからつけたハンドルネームで、俺に知り合いがそんな風に呼ぶわけがないのに。

「わたしマリだよ!分かる?」

そう、その子はあのSNSでネット友達になってくれたマリだったんです。
俺はもう呆気に取られて、すごく間抜けな顔で「な、なんで!?」と尋ねた。
声が裏返って恥ずかしかった。

「シムラくん、踏切の写真上げてたでしょ、それ見て急いできたの!」
「なんで分かったの…」
「前に上げてた絵馬の写真、近所の神社って言ってた。
あれって◯◯神社でしょ?うちの近所だから、すぐ分かった」

マリの話によると、絵馬の写真から俺が近い地域に住んでいる事を察していて、踏切の写真を見てすぐに駆けつけたのだと言う。

息を切らしながらチャリに跨がるマリは、セミロングの、小柄な女の子だった。
マリは、顔も知らない俺のために、こんなに急いで駆けつけてくれたんだ。

俺はもう胸がいっぱいになって、そのまま蹲って泣いた。

「シムラくん…もうすぐ終電だよ。ほら、帰ろうよ」
「……俺、俺は…」
「また好きなバンドの話しようよ。今度、CD貸してあげるから」

俺はぐっちゃぐちゃに泣きながら頷いた。

俺とマリとは……その後何事も無く、何度かは会ったけど以前と同じような距離感だった。
マリは俺よりも先に社会人になって、俺は人より2周遅れて大学生になった。

あれから10年位経って、俺も無事に社会人になった。
マリとは今でも、些細な下らないやり取りをするネット友達でいる。