グループトークを通じて知り合ったネット友達と質量過多な思い出

小原

こんにちは、20歳の女子大生の小原です。

これから記載する記事は、私が中学2年生の頃、同じ地区のバスケ部という括りで作成されたグループトークで、出会った女の子みたいな名前の男の子との思い出です。

名前も顔も知らない2人がどのように関わっていくのか、ネット友達のリアルな関係を最後までどうぞご覧下さい。

よろしくお願い致します。

きっかけ

私は、とある地区、ここではG地区とします。
G地区の中学校に通う2年生です。

毎日学校では課題や部活に追われ、家ではその疲労回復をするため、ほとんど自由時間の無い退屈な生活を送っていました。

ある日、いつも通り部活を終えると同じ部活仲間の結に
「G地区バスケ部」
というトークルームに誘われました。

自分がその名称に該当してるため、何も躊躇することなくグループに入りました。

そこには、数え切れないほどのメンバーと、たまに見覚えのある名前や、名前からは想像もつかないようなメンバーまで様々いました。

私はトークを開くなりズラズラと並ぶメッセージたちを見るだけにして、その日は帰宅しすぐに寝ました。

七海

次の日の朝、昨日の例のトークを開いてみると、夜遅い時間までメンバーたちが会話を楽しんでいた様子が残っていました。
また、グループから私のことを友達に追加し、個別でメッセージを送ってくれるメンバーもいました。

しかし、SNSに不慣れな私がそんな大量のメッセージたちに対応することができる訳もなく、ましてや、顔も名前も知らないような人になんて言ったらいいのか分からず、暫く放置しようと、携帯を閉じかけました。

すると、携帯の画面に
「七海:よろしく!俺、2中のキャプテン!わかる?」
との文字が通知されたのです。

理由はないですが、私は衝動的にこのメッセージに反応しました。

「知らない!てか、俺って、男の子?」
そう返すとウサイン・ボルトか、とツッコミたくなるほど素早く返信が来たのです。

「そうそう、七海だけど、!身長も190あるし」
意外な事実に少し表情が緩んでしまいました。

こんな些細な始まりから、私と七海は「ネット友達」になったのです。

ネット友達という関係

それから毎日のようにトークを続けた私と七海。
好きなバスケットボール選手や、前の大会での話、たまには恋愛の話をしたりなど、話題は尽きず、普段は疲れて21時には寝てしまうような私が夜中まで画面をニコニコ見つめて毎晩を過ごしていました。

七海はとてもユニークで、今日あったこと、部活でした失敗、授業中に私に返信しようとして先生にバレたこと、どんなことでも面白おかしく私に話してくれました。

顔すら分からないのに、いや、顔が分からないからこそお互い気兼ねなく話せたのかもしれません。
そういえばこんな友達って現実ではいないかもなぁと物思いにふけたりもしました。

ネット友達という関係にしては、お互いのことをよく知っている、もしくは知りすぎているとも言えますが、普通の友達と言うには少し距離がある。

そんな曖昧であやふやな関係が私にとってはなかなか心地がよくて、気に入っていました。

はじめまして

ある日、こんなメッセージが届きました。

「七海:日曜日、暇?6中の試合、観に行こうよ」
これを見た私は心臓が飛び跳ねるような感覚になりました。

ネットを通じたこの距離が縮まることが、嬉しかったのか、それとも寂しかったのか、きっと両方だったのだと思います。

悩んだ末、私は七海を信じてみようと決心し、OKを出しました。

当日は午前中に部活の練習がありました。

顔も知らない相手と待ち合わせってできるのかな、そういえば苗字も知らないな、バスケ観るだけだけど何を着ていけばいいの?
っていうか、部活の後だからシャワー浴びなきゃ!!!

など、頭の中を様々な問題が駆け巡り、ネット友達初心者の私には直接会うなんてキャパオーバーだったため、まともに練習に集中できる訳がありませんでした。

シュートも外し、パスミスもしました。

顧問の先生にこっぴどく叱られ、しまいには友達の結に
「あんたがスリー外すの珍しいね
なんて不思議がられました。

でも、私はこの後七海と会う。
その事実だけで、先生の怒鳴り声も、結のヒソヒソ声も、ボールが体育館をつく音ですらも、私の耳には虫の声のように聞こえていました。

練習後、急いで支度をして、待ち合わせました。

「七海:俺、黒のジャケット着てる!でかいからすぐわかるよ(^o^)」
ほう、こうやって待ち合わせをするのか~、などと感心するのも束の間、いきなり後ろから誰かに肩を叩かれました。

「もしかして、七海?って俺も七海か(笑)」
聞きなれない声で、いつも通りの面白おかしな台詞が聞こえました。

私は困惑のあまり、言葉が出ませんでした。

どうした?
と顔を覗きこまれた末、出てきた言葉が
「な、七海です。はじめまして、七海くん。」

私なりに考え抜いて出した第一声に七海は、
「同じ名前じゃわかんねーよ!
てか知り合いなんだからはじめましてじゃないし(笑)」

などとゲラゲラ笑っていました。

笑わないでよ!
なんて返していたけど、

「そうか、私たちって“”知り合い””か。」
なんて、特に意味はないけど一瞬だけ彼が遠く感じました。

しかし、彼が
「じゃ、行こっか」
と言った時には、もう打ち解けられていたのかもしれません。

その日は試合を観て、そのまますぐ解散しました。

ネット友達の終わり

中学3年生に上がり、遂に私たちは最後の引退試合を迎えました。
どこの中学も同じ会場で同日に何試合も試合が行われました。

チームごとのメンバー表が記載された冊子を一つ手に取り、試合が午後からだった私は、結と、他中の試合観戦をしました。

メンバー表を指さして
「みてみて!これ前の試合の?」
「あ!この人知ってる」

などと口々に言う結を横目に、私は会場内に居るはずの七海を探していました。

すると向かいのコートで1人だけ明らかに背の高い、そして初めて会った時とは違い、少し眠そうにアップをしてる七海を見つけました。
あっちもこちらに気づいたようで、ニコッと手を振ってくれたのです。

初めて会ったあの日から私たちはより一層距離が近づきましたが、依然として、誕生日や出身地、苗字すらも知りませんでした。

七海のいる2中の試合が始まりました。
しかし、相手との実力に差があり、102-32で七海たちは大敗しました。

試合終了後、声をかけに向かおうとしましたが、お通夜ムードのチームの中で話しかけに行く勇気はありませんでした。

「ネット友達」の距離を保ちたかったというのが本音かもしれません。

引退試合が終わってから3ヶ月以上が経って、もう夏が終わり冬に入ろうとしていました。
あの日から、七海からの連絡はないです。

あの時話しかければよかったかなとも思ったりもしましたが、ネット友達を望んだのは私だったし、心配しつつも、こんなもんなのかなと割り切る私もいました。

中学卒業を控える、寒い冬のある日、久しぶりに七海からの通知が鳴りました。

「ずっと連絡してなくてごめん!
俺、アメリカにバスケ留学することが決まったんだ!
だからもうメッセージもしない、急でごめんね。」

“”留学””
“”もう話せない“”
“”ごめんね””

そんな言葉達が脳内でぐるぐる回りました。

本当はずっと連絡を待っていたのです。
でも、彼はいとも簡単に私の元から去っていきました。

いや、そもそも私の元になんか居なかったのかもしれないです。
所詮ネット友達だと自分に何度も言い聞かせました。

これが、私の体験した「ネット友達」との思い出になります。

私の初めての親友は
「ネット友達」
で、今はもうどこにいるのか、何をしてるのか分かりません。

当初は知っていた「バスケ部」という肩書きすら今はもう分からないのです。

こんなに簡単に終わってしまうんだなと、私はひとつの大恋愛をした後のような、心にぽっかり穴が空いたような、空虚感に包まれました。

この思い出は、未だに私の中で、ふとした時に思い出されます。

思い出すにも一瞬で、刹那のようだった思い出は、どんな記憶よりも濃く、また、それ以上に呆気なかった
です。

あの日、たまたま同じ「七海」に反応した、それだけだったということでしょう。