ささ美
このお話は今から5年ほど前、私が大学生だった頃のお話です。
ネット友達をどのように作り、どんな風に仲良くなって、そしてお別れしてしまったのか。
最後まで見届けていただけると嬉しいです。
アイドルどっぷりだった私の生活
私は小さいころからアイドルが大好きな女の子でした。
かわいらしい衣装に身を包み、歌とダンスで喝采を浴びる。
キラキラとしたアイドルの女の子に憧れて、同じようなフリフリ衣装を着てみたり、おもちゃのマイクを持って歌ってみたり、そんなことを物心ついたときからやっていたような気がします。
そんなアイドルへの熱い想いは成長しても全くとどまることを知りませんでした。
逆に自由に使えるお金や時間が増えたことで、DVDを買いあさったり朝までカラオケに引きこもってアイドルの歌を歌ったりと行動は激化。
私の青春はアイドルとともにあり!
といっても過言ではない生活を送ってきました。
こんなやりたい放題の生活を送ってきたわたしですが、1つ不満なことがありました。
それは、好きなアイドルについて語り合える友人がいないこと。
当時、AKB系やスターダスト系のアイドルが人気を博していたのですが、私が好きなのは彼女たちではありませんでした。
大好きで大好きでたまらないグループの良さを分かち合うことができない。
そんな状況から脱出すべく私がとった行動は、アイドル専用のSNSアカウント作成でした。
ネット友達Kさんとの出会い
専用のSNSアカウントを作成してしばらくはなかなか人とつながれず、思うように友人が増えませんでした。
しかし地道につながりたい人をフォローしたり、リプライを送ったり、アイドル情報を発信していくことによって徐々にフォロワーも増えていきました。
そんな中で出会ったのがKさんでした。
私が何気なくつぶやいた内容にリプライを送ってきてくれたことがきっかけで急激に親密な関係に。
1日一回はお互いの発信した内容にコメントし意気投合する、という流れが私たちの日常になりました。
私もKさんも、そのグループが結成された当初から応援しつづけている生粋のオタク。
話す内容は尽きることがありませんでした。
その時私は、ネットの中の世界をある種の架空世界と捉えていました。
SNSの画面の向こう側には別の現実が広がっていて生身の人間が住んでいるということを忘れていたのです。
アイドルとKさん、ごめんなさい
SNSでの友人も増え充実した生活を送っていた私は、ついにアイドルのライブ現場に行くことになります。
それまで親に反対され続けていた現場参戦。
チケットが当選したときは息がとまるほど嬉しかったのを覚えています。
すぐに私はその興奮をSNSに書き込みました。
するとすぐにリプライが届きました。
「僕もその現場行きます!もし会えたら会いましょう!」
Kさんからでした。
そのリプライを見た瞬間、すぅっと興奮が冷めていくのがわかりました。
現実でネットの中の人と会う?
危険じゃないか?何か危ない目にあうことがあったら…。
悪いほうにばかり考えを巡らせてしまい、あんなに楽しみだったはずのライブが怖いものになってしまったのを覚えています。
そして迎えたライブ当日。
会場入りの前合流しようと言われていた場所を遠くから見てみると、私より一回り年上とみられるおじさんが立っていました。
何度も携帯を確認する姿に罪悪感を覚えましたが、その罪悪感を悪い想像による恐怖が上回りました。
私はアイドルにもKさんにも背を向け、会場を走り去ったのです。
SNSとアイドルからの卒業
Kさんとの約束をすっぽかした私は、そのSNS界隈にはもう居続けられないと判断し、アカウントを削除してしまいました。
アカウントを消去した途端、SNSを通じた人とのつながりが憂鬱になりました。
そして苦い経験を思い出してしまうアイドルグループを応援することも…。
Kさんを自分の目で現実として認識したことが、私をSNSやアイドルから遠ざけたのです。
その数か月後、きっかけとなったアイドルグループの解散が決まりました。
結局1度も彼女たちを現場で見ることのないまま、彼女たちは解散してしまいました。
ふと思う時があります。
あのとき私がKさんに歩み寄っていたら。
一緒にアイドルのライブに参戦していたら。
私たちは「ネット友達」の枠を超えた友人、親友になれていたのではないかと。